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ポルクス
「サイボーグのおじいさん、アルゴノーツが昔、船だったって本当?」
カストル
「弟のポルクスが信じないんだよ、エルマンじいさん。俺もこのオンボロの塊が動いてたってことが信じられないんだけど」
エルマン
「これは大きなプラント船だったのはもう二十年も昔のことだ」
カストル
「俺達が産まれる前の話か」
ポルクス
「でも船って海にあるものでしょう? アルゴノーツはなんでこんなところにあるの?」
エルマン
「アルケイデスのことは知っているかな?」
カストル
「英雄だろ? 大人たちから聞かされたよ。昔、ここを守るために戦ったえらい人だって」
ポルクス
「でも爆弾で死んだって」
エルマン
「そのとおり。アルゴノーツは、ポセイドンという国を離れ、自らの自由のために独立国家になろうとしていた」
カストル
「ポセイドンって会社がいっぱい集まって出来てる国だろ? ずっと遠いところにある……」
ポルクス
「オリュンポスと仲悪いんだよね?」
エルマン
「その昔、戦争がいろんなところで起きていた頃、疲れきった世界をまとめたのがオリュンポスだった。古い大国はそれに従うしかなく、オリュンポスに対抗できるだけの力があるのがポセイドンだけだったのだ。ポセイドンはリーダーになりたいと思っていたのかも知れんがのう」
カストル
「なんでアルゴノーツはポセイドンから独立しようとしたの?」
ポルクス
「兄ちゃん、独立ってなに?」
カストル
「独立ってのは、自分ひとりで生きていくことだよ」
ポルクス
「……僕、やだな。兄ちゃんと一緒がいい」
エルマン
「お前たちのように仲のいい兄弟であれば、一緒に生きていくこともできるだろう。だがアルゴノーツを作ったアルケイデスと、ポセイドンは仲が悪くなってしまったんだ」
ポルクス
「ケンカとかしたの?」
エルマン
「ポセイドンは、働き手の多くを不平不満を言う人間たちからバイオロイドに切り替えようとしていた。働く場所を失った人間たちには、楽ができるような環境が与えられた。ところが、そうした中から一生涯、働き続けたいという技術者たちが現れたんだ」
カストル
「楽できたほうがいいのにな」
エルマン
「手に技術を覚えると、どこまでもそれを続けていたいと思うことがあるんじゃよ。まあ、そうした技術者たちは働く場所を求めたが、そんな場所はどこにもなかった」
カストル
「ポセイドンが捨てたってこと?」
エルマン
「そうかもしれん。時代の流れは確実にバイオロイドが主流となりつつあったからのう。だが、居場所のない技術者が存分に腕を奮えるような場所を作り、その成果を仕事として世界に売りだしたのがアルケイデスだった」
ポルクス
「それでアルゴノーツを作ったんだね」
エルマン
「うむ。アルゴノーツの高い技術力はすぐに取引相手が見つかった。だが、金儲けができると知ったポセイドンは、アルゴノーツが自分の国の船だと主張したところから仲が悪くなっていったんだ」
カストル
「ひどい話だな。一度、捨てたものなのに」
エルマン
「アルケイデスはポセイドンに並ぶ大国のオリュンポスに後ろ盾になってもらうよう頼み込んだ。だがポセイドンはアルゴノーツを国益を犯すテロリストと認定し、ついには爆撃まで実行したのだ」
ポルクス
「……アルケイデス、死んじゃったの?」
エルマン
「その爆撃はまさにアルケイデス一人を殺すために行われたようなものだった。当時、アルケイデスには赤ん坊を宿した妻がいた。だがその爆撃で帰らぬ人となったのだ……」
カストル
「ひでえ……」
エルマン
「だからこそ、わしらは朽ちたアルゴノーツに残り、今もなおアルケイデスの意思を引き継ごうとしている。大切なのは、ものを作りだす技術を持つことであることを」
ポルクス
「僕もなにか作れる人になりたい」
エルマン
「その気持ちを忘れなければ、大丈夫だよ」