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義経
「ふー、赤ちゃん、やっと寝てくれたよ」
ヒトミ
義経くん、ご苦労さま。おむつも替えてくれた?
義経
「うん。バイオロイドでも、肉体構造は基本的にヒトと一緒だから、食べるもの食べれば出るものは出るしね」
ヒトミ
「……これから食事なのに。デリカシーに欠けてない?」
義経
「そう?」
ヒトミ
「レストランに就労しているバイオロイドなら間違ってもそんな発言しないと思うんだけど」
義経
「たしかに言動・行動、ある程度の潜在教育はされてるだろうね。ヒトに奉仕することを喜びとするバイオロイドの行動原理だし」
ヒトミ
「私たちの創造主はヒト、というわけなのね」
義経
「ヒトを神様と同列に捉えるなんて、大それた考え方だけれど、創造主というものの定義としては上位の存在を指すわけだから、あながち間違ってるとは言えないね」
ヒトミ
「バイオロイドは遺伝子構造を、多くのヒトの遺伝子をモデルにして必要な要素を抽出して設計されるのよね。例えば、デュナンのお父さんとかの遺伝子もモデルになってて、そこから生まれてくるバイオロイドは、デュナンのお父さんそっくりになるってこと?」
義経
「ハードウェア的にはそうなのかもしれないけど、育成環境が違うからそのままってことにはならないと思うよ。育成環境を限りなく近づけてみれば、近似的なヒトとなることはあるかもしれないけど。一卵性双生児の兄弟とかがそうかな?」
ヒトミ
「同じ行動とるっていうものね」
義経
「バイクだって寸分違わず同じ製品が出来ても、環境や乗り手で個性が生まれてくるものだから、微妙なクセとかついちゃうし、そうなると愛着がわくだろ?」
ヒトミ
「機械に癖がでるなら、サイボーグのヒトたちは大変よね。調子が悪いのなら修理に出せばいいバイクや車と違って、命の危険に関わるかもしれないんだもんね」
義経
「だからこそ日頃のメンテナンスが大切になるんだよ。ヘカトンケイルのブリアレオスの場合、ES.W.A.T.で働いている分、自分の扱う武器の不具合が命取りになるのがわかっているからメンテナンスの重要性についても理解が深いんだ。同様にギュゲスのようなランドメイトも、人間をサイボーグにするような補助装置だからメンテナンスが大切になるのさ」
ヒトミ
「メンテナンスって意味では、私達バイオロイドも延齢処理とか定期的にあるもんね。へんなクセが出ても修正できるし」
義経
「そうそう。あの赤ちゃんたちはゼロ処理だからそうした介入をしないで、ヒトと同じように育成方針だから、クセがでることを期待されてるんだろうね」
ヒトミ
「ゼロ処理かぁ。私たちバイオロイドは遺伝子処理されたものを掛けあわせて二世代、三世代と最適化していくものだけれど、普通に母親の胎内から生まれてくるヒトと変わらない構造なのよね」
義経
「出所が代わっても、出力されたら同じデータだね」
ヒトミ
「そんな無機物みたいに言わないで」
義経
「ごめん。でもさ、考えてごらんよ。僕たちの体の部品すべてが人工機械になったらロボットって呼ばれるのかもしれないだろ?」
ヒトミ
「ロボットに欲はないでしょ?」
義経
「目的達成のための優先度はあっても、それは欲ではない、と。確かにそうかもね。僕たちはヒトの喜ぶ顔をみて、もっと喜ばれたいと思う欲求があるからね」
ヒトミ
「バイオロイドそれぞれにそうしたクセが設定されているのよね。そういえばゼロ処理のこの子たちにもあるのかしら?」
義経
「初期状態のままなんじゃない? つまり遺伝子任せというか」
ヒトミ
「アルケイデス遺伝子って、独立心と開拓精神に溢れるって触れ込みなんでしょ? でも遺伝子原種保持者がテロリストになっちゃったのよね。……なんか心配」
義経
「平和で満ち足りた環境さえ整えばテロリストは生まれてこないと思うね」
ヒトミ
「そうなるといいわね」
義経
「そうだね。こうしておいしいご飯と愛すべきパートナーさえいれば、争いは生まれてこないさ」
ヒトミ
「……義経くん♥」
義経
「あ! 明智モータースのギュゲス、明日納品だった!」
ヒトミ
「ちょっと義経くん! 義経くん! ……もう、ロボットと結婚しちゃえ!!」