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――ここはオリュンポスの片隅にある、小さなバー。 とあるサイボーグが副業としてオーナーを勤める大人の憩いの場である。今宵も一人の女が毒を吐きに訪れる――。
ジーナ
「ドライ・マティーニ」
グリッグ
「さっきからずっと呑んでるじゃない。そろそろやめたら」
ジーナ
「いいの! ねえ、ママ、聞いてよ」
グリッグ
「ここはスナックじゃないし、私はママじゃないわよ。それに仕事の愚痴なら聞かないわよ」
ジーナ
「命を預ける仲間同士じゃない」
グリッグ
「そんな関係だから聞かないのよ。明日から仕事しづらくなるじゃない」
ジーナ
「だってセクハラの相談なんて、あなた以外にできないもの」
グリッグ
「同性ならデュナンがいるでしょ」
ジーナ
「あの子はダメよ。女性として方向性が違いすぎるもの」
グリッグ
「私、全身サイボーグだから性別は超越しちゃってるけど、DNAはオスよ」
ジーナ
「でもオカマでしょ?」
グリッグ
「ボーダレスなだけ。デュナンがダメならランス隊長にすればいいじゃない。ES.W.A.T.である私たちの直属の上司だし」
ジーナ
「ムリムリ。今日もES.W.A.T.がオリュンポスにおいて効果的に機能するための提案書をテキストにまとめて報告しろとか、いつの時代の人間よ。ねー、サムライ・ロック!」
グリッグ
「残念。ポセイドン製のお酒きらしちゃってるの。軽いのにしたら」
ジーナ
「じゃあブラック・ルシアン。ウォッカ多め」
グリッグ
「……お酒呑むと性格変わるんだったわね」
ジーナ
「いいの! ES.W.A.T.がなんたるか、まだ言えるもの!」
グリッグ
「言ってご覧なさいよ。言えたらおかわりあげるわ」
ジーナ
「えっとね、ES.W.A.T.――ESpeciality Weapon And Tactics――はオリュンポスの内務省治安局長直属の攻性のカウンターアタックテロ部隊であり、警察的な捜査機能も持ちあわせる超法規的な部隊である。 オリュンポスにいる隊員は90名弱。その中のランス直属の選抜アタックチームが私たち。ランス隊長を筆頭に、万能アタッカーのデュナン、ヘカトンケイルのサイボーグ・ブリアレオス。ベテランのマグス、肉体派で格闘教官でもあるリエス、ストイックなバクスタ、そしてデカトンケイルのあなたと、情報分析担当の私。上には治安局長である大佐と、その上にアテナ内務大臣とニケ参長。 オペレーションにはランドメイト・ギュゲスでのアタックを基軸とするが、軽装備としてガーシム、またはオークでのアタックも想定されるため……」
グリッグ
「わかった、わかったわよ。はい、お酒」
ジーナ
「わかればいいのひょ」
グリッグ
「ろれつまわってないわよ。それにお酒くさい女なんて嫌われるんじゃない?」
ジーナ
「今更誰に? 司法省のFBIとは犬猿の中。普通警察やS.W.A.T.たちからも嫌われてるし、うちの男どもなんてうんざり。あの、セクハラ野郎ども!」

――パリン!
グリッグ
「あ、グラス」
ジーナ
「おひゃわり! セブンス・ヘブン!」
グリッグ
「これ以上呑んだら、ほんとに天国いっちゃうわよ?」
ジーナ
「ここ天国じゃないの?」
グリッグ
「テロリストたちの恰好の的になってるオリュンポスが? いえ、意図的に『的にしている』かしらね」
ジーナ
「お酒がいっぱいあるならどこだって天国よ」
グリッグ
「ほんとにあなたって人は……。それでセクハラってなにされたのよ」
ジーナ
「なにそれ?」
グリッグ
「あなたが相談してきたんじゃない」
ジーナ
「忘れたあ、アハハハ」
――ピピピピ!
ジーナ
「……誰よ……、こんなときに。……ランス?」
グリッグ
「やだ、店じまい?」
ジーナ
「はい、こちらジーナ。……了解。直ちに向かいます。グリッグ。マルサンマルマル、本部集合」
グリッグ
「酔い覚ましいる?」
ジーナ
「もう飲んだわ。いきましょ」
グリッグ
「りょーかい」